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歯周病で治療中だが、インプラント治療は受けられるのか

ブログ

2025.11.30

歯周病の進行とインプラント治療でお悩みの方へ

歯周病は、歯を失う主な原因の一つであり、進行すると顎の骨まで溶かしてしまう恐ろしい病気です。そのため、すでに歯周病で治療を受けている方、あるいは歯周病が原因で歯を失ってインプラント治療を検討している方から、「この状態でインプラント治療を受けても大丈夫だろうか」「インプラントも歯周病になってしまうのではないか」といった不安の声を多くいただきます。インプラント治療は、失った歯の機能を取り戻す有効な手段ですが、成功のためにはお口の中の環境が非常に重要になります。特に、炎症性の疾患である歯周病インプラントは密接に関係しており、この関係性を理解せずに治療を進めることは、将来的なインプラントの失敗に直結しかねません。この記事では、歯周病治療中の患者様がインプラント治療を検討する際に知っておくべきリスクと、長期的な成功のために必要なステップについて詳しくお伝えします。

歯周病とインプラントの関係性

歯周病は、歯を支える歯ぐきや顎の骨を破壊する細菌感染症です。インプラント治療における最大の長期的なリスクの一つに、インプラント周囲炎という病気があります。これは、天然歯における歯周病と非常によく似た病態で、インプラントの周囲の歯ぐきに炎症が起き、進行するとインプラントを支えている顎の骨が溶けてしまう病気です。インプラント周囲炎は、天然歯の歯周病と同様に、口腔内の細菌が増殖することが原因で発生しますが、天然歯に比べて進行が非常に速いという特徴があります。このため、元々歯周病を患っていた方や現在歯周病の治療中である方は、そうでない方に比べてインプラント周囲炎を発症するリスクが格段に高くなりますなぜなら、歯周病菌がお口の中に多く存在している環境にインプラントを埋入すると、インプラントの周りに容易に感染が広がり、骨が溶け始める可能性が非常に高くなるからです。したがって、インプラントを長期間、健康に維持するためには、インプラントを埋入する前に、歯周病菌の影響を最小限に抑える、つまり徹底的に歯周病をコントロールすることが不可欠となります。

歯周病でもインプラント治療は可能?

現在歯周病の治療中である方や、過去に重度の歯周病を患っていた方でも、適切な治療と管理を経ることで、インプラント治療を受けることは十分に可能です。重要なのは、「インプラント治療を受ける時点でお口の中の歯周病がコントロールされている状態であること」です。活動性の高い歯周病、つまり現在進行形で炎症が起き、骨の破壊が進んでいる状態でインプラントを埋入することは、インプラント周囲炎をほぼ確実に引き起こし、治療の失敗に直結します。

インプラント治療に進むために、歯周病のコントロールで目指すべき状態は以下の通りです。

  • 炎症の鎮静化: 歯周ポケットからの出血や歯ぐきの腫れといった、活動性の高い炎症症状が完全に治まっていること。
  • プラークコントロールの確立: 患者様自身による毎日のブラッシング(セルフケア)で、お口の中のプラーク(歯垢)の量が良好に維持できている状態であること。
  • 歯周ポケットの改善: 歯周ポケットの深さが浅くなり、歯周病菌が繁殖しにくい環境が整っていること。

この歯周病の活動性を抑えるステップを経ることで、インプラントを埋入する部位の骨の状態を安定させ、インプラント周囲炎を発症するリスクを最小限に抑えることができます。したがって、「歯周病だからインプラントは無理」と諦める必要はありませんが、治療の成功と長期的な維持のためには、まずは歯周病の徹底的な管理が必須であると理解しておくことが大切です。

歯周病治療を最優先にする理由

インプラント治療の検討に際して、歯周病治療を最優先し、インプラントの埋入を後回しにするのには、明確かつ長期的な理由があります。それは、インプラント周囲炎の予防治療の土台作りに他なりません。インプラント周囲炎は、天然歯の歯周病と同様に進行しますが、症状の自覚がないまま急速に骨破壊が進む傾向があるため、一度発症するとインプラントを失う危険性が非常に高い病気です。

歯周病治療をインプラント治療より優先する主な理由は以下の通りです。

理由

詳細な説明

インプラントへの影響

感染源の排除

進行中の歯周病は、インプラントを埋入する予定の場所を含め、口腔内全体に病原菌を供給し続けている状態です。この感染源を放置したままインプラントを埋入すれば、埋入直後からインプラント周囲炎のリスクにさらされます。

骨との結合不全や、早期のインプラント周囲炎の発症に直結します。

骨量の安定化

歯周病の炎症が治まると、残っている歯の周囲の骨破壊の進行が止まり、炎症による骨吸収の悪循環が断たれます。これにより、インプラントを支える土台となる顎の骨の状態を正確に評価し、必要な骨量を確保する計画が立てやすくなります。

適切な位置と深さに安定してインプラントを埋入することが不可能になります。

治療後の予知性の向上

患者様が歯周病の治療を通じて正しいセルフケアの習慣を身につけることが、インプラントを長持ちさせるための最も重要な要素です。この習慣化なくして、インプラントの長期安定は望めません。

術後のインプラント周囲炎再発リスクを大幅に高めます。

したがって、歯周病治療は、インプラントという高価で長期的な修復物を守るための、欠かせない予防措置であり、決して遠回りではありません。安全かつ確実なインプラント治療のためには、まずお口全体の健康を取り戻すことが基本原則となります。

過去、歯周病治療を行なっていた方がインプラント治療を受けるには

過去に歯周病の治療を経験された方、あるいは歯周病が原因で歯を失った方がインプラント治療を検討する場合、最も重要になるのは、「現在の歯周病の再発リスクがどの程度管理されているか」という点です。過去の治療歴があるからといってインプラントが受けられないわけではありませんが、治療に進む前には、インプラントを安全に埋入し、長期間維持していくための厳格な評価と準備が必要となります。

過去に歯周病治療歴がある方がインプラント治療を成功させるためのステップは以下の通りです。

  1. 徹底的な再評価と診査:
    • 現在の歯周病の状態の確認: 過去の治療後、歯周病が安定してコントロールされているか、活動性の炎症がないかを再確認します。歯周ポケットの深さ、歯ぐきの状態、動揺の有無などを詳細にチェックします。
    • 骨量の評価: 歯周病の進行でインプラントを埋入する予定の箇所の骨が不足している場合、3D-CTを用いて残存骨量を正確に測定します。
  2. 必要な準備治療の実施:
    • 歯周組織再生治療: 歯周病が再発傾向にある場合や、残っている歯の健康状態が思わしくない場合は、インプラント治療前に残存歯の歯周病治療を完璧に完了させます。
    • 骨造成(GBR/サイナスリフト): 骨量が著しく不足している場合は、インプラント埋入に先立ち、骨を再生させるための手術を行い、強固な土台を準備します。
  3. 治療後のメンテナンス体制の確立:
    • インプラントは天然歯以上に定期的なプロフェッショナルケアが不可欠です。歯周病の既往がある方は特に、インプラント周囲炎のハイリスク群とみなされます。インプラント埋入後も、治療計画の一環として、歯科衛生士による徹底した定期メンテナンスプログラムを組むことが必須となります。

過去に歯周病を乗り越えた経験は、インプラント治療後のセルフケアに対する意識が高いことを示しており、長期維持に向けた強力なアドバンテージになり得ます。

まとめ

歯周病で治療中、または既往歴がある方がインプラント治療を検討する際、最も重要な原則は、「現在の口腔環境をいかに安定させ、インプラント周囲炎のリスクを最小限に抑えるか」という点です。歯周病は、インプラントの長期安定性を脅かす最大の敵であり、この問題を無視して治療を進めることは、高確率で将来的な失敗を招きます。

インプラント治療の成功と安全性を高めるために、歯周病でお悩みの方に知っておいていただきたい重要な点は以下の通りです。

  • 歯周病コントロールの優先: 活動性の歯周病が存在する限り、インプラント治療は行いません。インプラントを埋入する前に、歯ぐきの炎症を完全に鎮静化させ、プラークコントロールが良好に維持できる状態(安定期)を目指します。
  • インプラント周囲炎のハイリスク: 歯周病を経験した方は、インプラント周囲炎になるリスクが高いことを認識し、天然歯以上に厳格なセルフケアとプロフェッショナルケアの継続が不可欠となります。
  • 土台作り: 歯周病により骨が吸収されている場合は、骨造成手術(GBRなど)によってインプラントを支えるに足る十分な骨量を確保する必要があります。
  • メンテナンスは必須: インプラント治療は、手術がゴールではなく、治療後の定期的なメンテナンス(治療計画の一部)を継続できるかどうかが、その寿命を決定づけます。

歯周病という課題をクリアし、インプラントを成功させることは、失った自信と機能を取り戻す大きな一歩となります。ご自身の健康を守るためにも、まずは現在の歯周病の状態を正確に診断し、インプラント治療に耐えうる、そしてインプラントを長持ちさせられる健康な口腔内環境を整えることが最優先事項となります。

 



 
監修記事
小川 信Ogawa Shin
医療法人社団 新成会 理事長。歯科医師。日本口腔外科学会 認定医、日本口腔インプラント学会 専門医、日本顎顔面インプラント学会 専門医、厚生労働省指定臨床研修指導歯科医として、多岐にわたるインプラント治療を行う。新潟大学医歯学総合病院の口腔外科やインプラント治療部門で長く研究や臨床に携わっており、「患者さんができるだけ長い間、QOLが高い状態で過ごせるよう、そのライフスタイルに寄り添った歯科治療を提供したい」という想いで、日々の治療にあたっている。