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虫歯にならないはずのインプラント。なぜ、メンテナンスが必要?

ブログ

2025.10.30

インプラント治療を検討されている方、治療後の方へ

インプラント治療は、歯を失った部分にチタン製の人工歯根を埋め込み、その上にセラミックなどの人工歯を装着することで、天然の歯に近い噛む機能と美しい見た目を回復する優れた治療法です。「人工物だから虫歯になる心配はない」と聞いて、安心されている方も多いでしょう。確かに、インプラントの被せ物や人工歯根自体は金属やセラミックでできており、天然歯のように虫歯になることはありません。しかし、インプラントは「もうこれで安心」というわけではありません。インプラントを長持ちさせ、快適な状態を維持するためには、天然歯以上の徹底したケアと定期的なメンテナンスが不可欠です。ここでは、「虫歯にならないインプラント」に隠された、もう一つの大きなリスク、そしてなぜプロによるメンテナンスが欠かせないのかについて、知っておくべき知識を整理してお伝えします。

インプラントはなぜ虫歯にならない?

インプラントの特性を知りたい方へ

インプラントが虫歯にならない理由は、その構造と材料にあります。虫歯とは、口の中にいる細菌が糖分を分解する際に作り出す「酸」によって、歯の表面を覆うエナメル質やその下の象牙質といった天然の歯の組織が溶かされてしまう病気です。この「溶ける」という現象は、天然の歯の組織にしか起こりません。

インプラントが虫歯にならない理由

インプラントの構成要素

材料の特性と虫歯への影響

人工歯根(インプラント体)

顎の骨に埋め込まれる部分は、主にチタンでできています。チタンは生体親和性が高く、非常に強固な金属であり、酸によって溶かされる天然の歯の組織ではありません。

被せ物(上部構造)

歯に見える被せ物は、主にセラミックジルコニア、または金属などで作られます。これらの材料は、天然歯のエナメル質と異なり、口腔内の細菌が作り出す酸によって化学的に溶けることはありません。

セメント

インプラントの被せ物を固定するために使用される歯科用セメントも、虫歯の原因となるような酸によって分解されることはありません。

このように、インプラントのどの部分も、天然歯が持つ「酸で溶ける」という弱点を持たないため、原理的に虫歯になる心配はありません。これにより、「歯を失う恐怖」から解放されるインプラント治療の大きな魅力の一つとなっています。しかし、インプラントの周りの組織、特に歯茎や顎の骨は天然歯と同じであり、ここに細菌感染が起こることで、インプラント特有の深刻な問題が発生する可能性があります。次の見出しで、そのリスクについて詳しく見ていきましょう。

虫歯にならないはずのインプラント。なぜ、メンテナンスが必要?

インプラントを長持ちさせたい方へ

インプラント自体は虫歯になりませんが、人工の歯根が骨に埋まっている「インプラント」の周囲は、天然の歯と同様に歯茎と顎の骨に囲まれています。このインプラントと歯茎の境目に細菌が溜まり、炎症を起こすことで発生する病気が、インプラント特有の深刻な疾患である「インプラント周囲炎」です。インプラント周囲炎は、天然歯でいうところの歯周病と非常によく似た病気であり、これがインプラントが脱落する最も大きな原因となります。

インプラント周囲炎とは?(天然歯の歯周病との違い)

特徴

インプラント周囲炎

天然歯の歯周病

原因

プラーク(細菌の塊)による炎症

プラーク(細菌の塊)による炎症

進行速度

非常に速い

比較的緩やか

骨の破壊

歯と骨の結合(インテグレーション)が強固なため、一度炎症が起こると急激に骨が溶けやすい

歯根膜があるため、骨の破壊が比較的緩やか。

症状の現れ方

痛みなどの自覚症状が出にくく、気づきにくい

出血や歯茎の腫れなど、比較的症状が出やすい。

インプラント周囲炎は、痛みやグラつきといった自覚症状が出た時にはすでに手遅れであることが多く、歯周病よりも速いスピードで進行し、最終的にはインプラントを支えている顎の骨を溶かし、インプラントの脱落を招きます。この沈黙の病気を防ぎ、高額な費用と時間をかけて手に入れたインプラントを長期にわたって維持するためには、プロによる定期的なメンテナンスが絶対に欠かせません。このメンテナンスでは、ご自身のブラッシングでは届かないインプラント体のネジの隙間や、歯茎の奥深くを、専用の器具で徹底的に清掃し、早期の炎症の兆候を見逃さないようにチェックします。

虫歯で歯を失った。インプラントは可能?

虫歯が原因でインプラントを検討している方へ

インプラント治療を検討されている方の中には、重度の虫歯や再発を繰り返した虫歯が原因で、やむを得ず歯を抜歯することになったケースが多く含まれます。「虫歯になりやすい体質な自分でも、インプラントは大丈夫だろうか?」と心配されるかもしれませんが、虫歯で歯を失った場合でも、インプラント治療は基本的に可能です。

しかし、治療を成功させるためには、天然歯を失った原因を根本的に解決する必要があります。

虫歯で歯を失った方がインプラント治療を進める上での重要点

重要点

なぜそれが大切なのか

口腔内環境の徹底改善

虫歯で歯を失う原因となった「口腔内の細菌バランス」「食生活」「歯磨きの癖」を改善しなければ、残っている天然歯だけでなく、インプラントにも悪影響(インプラント周囲炎)が及びます。治療前に徹底的なクリーニングとブラッシング指導が必要です。

治療前の虫歯・歯周病の完治

インプラント手術を行う前に、残っているすべての虫歯や歯周病を完治させておくことが絶対条件です。口腔内に炎症や感染源が残っていると、手術後の傷の治りを遅らせたり、インプラント周囲炎のリスクを高めたりします。

残りの歯の予防計画の確立

インプラントだけでなく、残存歯の健康寿命を延ばすことが、噛み合わせ全体の安定につながります。インプラント治療を機に、フッ素塗布や定期的なプロのクリーニングを含む、オーダーメイドの予防プログラムを開始することが推奨されます。

顎の骨の状態の確認

虫歯が進行して歯の根の先に膿が溜まっていた場合、周囲の顎の骨が溶けていることがあります。インプラントを埋入するのに骨の量が不足している場合は、骨造成(骨を増やす手術)が必要となるため、事前のCT診断が不可欠です。

インプラントは虫歯になりませんが、細菌感染には非常に弱いため、虫歯の原因菌が多い口腔内環境を放置すると、インプラント周囲炎のリスクが跳ね上がります。つまり、インプラント治療は「歯を治す」だけでなく、「口腔内の健康習慣を築く」ためのスタートであると捉えることが、長期的な成功の鍵となります。

インプラントの寿命を決めるメンテナンスの重要性

インプラントを長持ちさせたい方へ

インプラントを長期間にわたって安定して使用し続けるためには、治療後のメンテナンスが最も重要であり、「インプラントの寿命はメンテナンスで決まる」と言っても過言ではありません。インプラント周囲炎は天然歯の歯周病よりも進行が速く、自覚症状が出にくいため、歯科医院で定期的にチェックすることが、唯一の予防策となります。

メンテナンスで歯科医院が行うこと

メンテナンスの要素

目的と具体的な内容

頻度の目安

専門的な清掃(PMTC

ご自宅の歯磨きでは届かない、インプラントと歯茎の境目や、人工歯のネジ穴周辺に溜まったプラークや歯石を、インプラント専用の器具(チタン製のスケーラーなど)を用いて徹底的に除去します。

3ヶ月~6ヶ月に一度

噛み合わせのチェック

インプラントや周りの歯に過度な負担がかかっていないかを確認します。特に奥歯のインプラントは強い力がかかるため、噛み合わせのバランスを微調整し、インプラントの破損や緩みを防ぎます。

3ヶ月~6ヶ月に一度

インプラント周囲組織の検査

歯周ポケットの深さの測定や、レントゲン撮影(年1回程度)により、インプラント周囲炎の初期兆候(歯茎の腫れ、出血、骨の吸収)がないかを早期に発見します。

3ヶ月~6ヶ月に一度

セルフケアの再指導

患者様ご自身の日々のブラッシング方法や、フロス、歯間ブラシの使い方が適切かをチェックし、インプラントの状態に合わせた最新の清掃方法を再指導します。

3ヶ月~6ヶ月に一度

インプラントの成功とは、手術が成功することだけではありません。治療後10年、20年と、ご自身の歯のように快適に使い続けられることです。そのためには、患者様ご自身の「自宅でのケア」と、歯科医院による「専門的なメンテナンス」という両輪の協力体制が不可欠です。インプラントを一生の財産とするために、メンテナンスを欠かさず受診しましょう。

 



 
監修記事
小川 信Ogawa Shin
医療法人社団 新成会 理事長。歯科医師。日本口腔外科学会 認定医、日本口腔インプラント学会 専門医、日本顎顔面インプラント学会 専門医、厚生労働省指定臨床研修指導歯科医として、多岐にわたるインプラント治療を行う。新潟大学医歯学総合病院の口腔外科やインプラント治療部門で長く研究や臨床に携わっており、「患者さんができるだけ長い間、QOLが高い状態で過ごせるよう、そのライフスタイルに寄り添った歯科治療を提供したい」という想いで、日々の治療にあたっている。